『暴走精霊使いと二つのプレゼント』
そよかぜのとおりみち 水紀さんより
たまごに小麦粉、バターとお砂糖。
お菓子を作るのはとっても楽しい。
「なあ……なにやってんの?」
聞こえた声は耳慣れたもの。
でも、この状況で『なにやってんの?』はないと思うんだけど。
今日のあたしはいつもの黒尽くめ衣装じゃなくて、ふつーの服に淡い色のエプロン。
おまけに両手にはボウルと泡だて器。
「おりょーりしてるんだけど?」
この格好で、ほかに何をするって言うんだろう?
あたしの至極当然の返答に、なぜか、かーくんは青い顔をする。
「ちょっとまったッ 何で料理なんてしてるのさッ?!」
「えー。りょーりしちゃ駄目なの?」
「材料が無駄になるからって禁止令でてるだろッ」
ぷくっと頬を膨らませて返すと、何故か絶叫された。
そりゃー確かに禁止令は出てるんだけど。
それは出来上がった料理を見れば一目瞭然。
おんなじ材料で作ったおんなじ料理のはずなのに。
右のテーブルはどこに出してもおかしくない……ううん、胸張って出せるくらいのパーティ料理。
逆に左は、自分でいうのもなんだけど……人はおろか動物に食べさせてるとこ見られたら虐待扱いされそうなシロモノ。
「綺麗につくろーと思ったら、味がとんでもない事になっちゃうし。
美味しくつくろーと思ったら、見た目がとんでもない事になっちゃうんだもん」
「ンな訳あるかーッ」
かーくんはそう絶叫するけど本当なんだもん。
両方のテーブルの中央に置いたのは、どっちも香草詰めて焼いた鳥さん。
右のはまさしくそれとしか言いようがないんだけど、左のは苔つき石にしかみえない。
それが味となると、左は極上文句なし、でも右のは草のエグみが凝縮されちゃってる。
基本は同じもの使ってるんだけどなー?
「ちょーどいいとこに来たから味見する?」
「断固拒否しますーッ!!」
むー。
このスープ、けっこう自信作なんだけどなー。
……灰色になっちゃったけど。
「食べる奴なんかいないのに作るなよーッ」
「そんなことないよー。
美味しいって、昔こーちゃん食べてくれてたよ?」
あの時こーちゃん、目が見えなかったんだけど。
「絶対無いッ 誰も食えないってっ」
「じゃー食べてくれる人がいたら、かーくんどーするの?」
「罰ゲームとか、騙すとかなしに食べる奴いないって!」
む。そこまで言われたらさすがに怒るよ。
「とりあえず遊んであげていーよ」
あたしの言葉に、いたずら大好きな建物の精霊(ブラウニー)さんは嬉々として応えてくれた。
◇ ◇ ◇
後はデザートの仕上げだけ。
泡立てたホイップクリームでデコレーションして、イチゴをのせて出来上がり。
右はちゃんとショートケーキなんだけど、なんで左はカビ餅みたいになっちゃうんだろう。
「ねーねー風の精霊(シルフ)?
どっちが喜んでもらえそーかな?」
なんて聞いても、こういった下位の精霊は意志を持たないから意味がない。
味でいうなら左なんだけど……そのままゴミ箱いきにされちゃ悲しいし。
お祝いだから、見た目だけで右を選んだ……ら、食べた時に嫌がらせだもんねー?
うん。
「いいや♪ 向こうに選んでもらっちゃえ〜」
自分で選んだんだったら文句も多分ないよね?
「じゃあその『えらいヒト』にちゃんと伝えてね? シルフ」
後はメッセージをかいてっと。
こんな感じで良いかな?
書き終えて顔をあげたら両方の料理の周りをシルフたちがくるくる回ってた。
えーと、これはつまり。
「あっそか。においで見当つけられるかもしれないもんね。
こーなったらロシアンルーレット楽しむ方が良いよねッ」
シルフたちに協力してもらって、香りもシャットアウト。
後はもう見た目に騙されるか、カードの言葉を信じるかのどっちかだけ。
「楽しんでくれるといーな♪」
「やっぱりオレが止められるはずないんだこの暴走娘。
早く帰って来いよー」
心のそこからのあたしの言葉に、しくしく泣き崩れるかーくんの弱音がまざった。
おしまい。
煮るなり焼くなりゴミ箱なり好きにしてよいとおっしゃってくださったので、そりゃもうアップするしかないですというわけで!
ソートもこの事実を知ったら「ンな訳あるかーッ」って絶叫しそうだなあとにまにましながら読んじゃいました(笑)
水紀さんほんとにほんとにありがとうございましたー♪
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。