精霊使いとその師匠〜ある日の朝の食卓で

▼ 「えー」

「えー」
「えーじゃない」
「マジで?」
 師匠はこくりとうなずいた。
「まーじーでー?」
「何度聞いても結果は一緒だぞ」
 苦い顔が苦笑に変化して、頭をぐしゃりとなでられる。
「俺、留守番するし」
 フラストに行くってことは、だ。自動的にグラウトに会わなければならないってことになるわけだ。別に会いたくないってわけじゃないけど、張り切って会いたくない相手でもある。
「何言ってるんだソート」
 師匠はなぜかにーっこり笑って、俺をなでる手に力を込めた。
 痛い、痛い痛い痛い痛い、痛い!
「俺だってあの陛下に会わなきゃならんのだから、お前も殿下に会わなきゃな」
「その論理間違ってるー!」
「気のせいだ。お前を連れて行くのは決定事項」
「心の準備くらいさせて欲しいんだけど」
「道中準備しろ」
 うー。いやそうなんだけどさー。
「ぐだぐだ言ってる場合じゃないぞー。明日一番に出るからな」
 師匠は容赦なく断言して、反論の余地なく今日しなければならない準備内容を説明し始める。
 最寄りの町まで徒歩、そのあとは馬車に乗って旅程はおおよそ一週間。それだけ家を空けるとなると、準備にもそれなりに気を遣う。フラストに行くなんて年に数度、下手したら数年に一度のこと。まして俺が準備を手伝うようになってまだ数回しかない。
 雑多な内容は覚えきれないし、つらつら続く説明を聞くとだんだんうんざりしてくる。
「俺留守番するんだけどな〜」
「留守番中に何かあったらどうする?」
「師匠、俺もうそれなりに留守番できるぞ?」
 信用されてないのかなあ。往復半月分、それくらいなら食料庫にある食べ物で充分生きてけると思うんだけど。
「はっはっは。お前が寂しいと言って泣くと俺が困る」
「なかねえよ!」
「いやいやいやいや、俺はその辺が心配でなあ」
「そんな余計な気を回さなくてもいーんだけどー」
 じっとり見上げた師匠はふいっと視線をそらして、文句は聞かないって態度で皿を片付けて立ち上がる。
「俺が行って、お前がいなかったら殿下が寂しがるだろ。だから我が侭言いなさんな」
 あいつの寂しいはなんか人と違う気がするんだけど。俺の反論を待たずに師匠は部屋を出て行った。
「すぐ来いよー」
 かと思いきや、声だけがそう告げた。
 すぐに返事をしなかったのはせめてもの抵抗のつもりだ。俺はため息一つを吐いたあと、あえてゆっくり片付けをしてそれから師匠の手伝いをすることにした。

END No.5

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