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精霊使いと国境越え
道は時々曲がりながらも、しっかりと続いている。
「それにしても」
歩いている間、ずっと黙り込んでいるのもつまらないので俺は呟いた。
「へ?」
レシアがいきなり呟いた俺にびっくりしたように視線を向けて、間の抜けた声を出す。
「どうかしたわけ?」
俺はそのレシアの顔をじっと見つめた。
「何よ?」
レシアは眉間にしわを寄せて俺をちょっと睨む。
何で睨むんだよ、こいつは。
言うのは簡単だろうけど、それを言ったら聞きたいことが聞けなくなる。俺はぐっと言いたいのを我慢した。
「方向音痴っつっても、どうやったら道を外れることができるんだ?」
話すと言っても、女の子と何を話していいかわからない。このネタなら、こう時事ネタって感じでいいだろう。
獣道でも歩いたわけでもあるまいに、道を外れるなんてよっぽどのことがないとできないだろうしな。
「どう、って」
レシアは眉間のしわをますます深くした。
「知らないわよ」
「だって、見ろよこの道幅。田舎道にすりゃ、結構道幅広いぞ? すれ違うのは苦労するだろうけど、馬車だって通れそうだし」
実際、この道は整備されていると思う。
俺の住んでいたフラストって国は交易が盛ん――らしい――から、田舎でもこれよりも整備された道をしてたけど。
……まあ、家から町までの道はこれよりも悲惨だったけど。なんだって、師匠があの家に住むことにしたのか疑問なんだけど、俺の育った家はただでさえ辺境の田舎町の外、森の奥深くにあったんだ。
そんなクソ田舎の森の中にあるにしちゃその家っつのがそれこそ古びちゃいるもののフラストの王都の貴族の家と比べても引けを取らない妙に豪華な造だったてのも今思えば疑問っちゃ、疑問だ。
ともかく、舗装はされてないものの、近所の町に向かう道の幅の狭さや雑草で消えていきそうな道や、さらには自然のまま転がった石ころや、そんなものと比べたら、この道は格段にいい。
広いし、雑草は所々生えているものの踏み固められてしっかりとしている。歩きやすいように石ころやなんかは取り除かれているのだろう。つまずきそうな石ころなんか、全然見当たらない。
で、だ。
視線を横に移すと、道とは違って一面の草むらが――そうだな、俺のひざ下くらいの高さで広がってる。
誰が、この道を反れて目的もなく草むらに突き進むもんだ? 進まないだろ、普通。
マーロウの近くの、街道の両脇にはびっしり木が植えられていた。確かにわき道があったし、そこからは木は植えられてなかった。
でもあの道は街道と比べたらはるかに狭い。なんとか馬車がすれ違えるかってのが街道。わき道はそれより狭い。
馬車が通れるだろうか? まあ、なんとか通れるか? 通れるな、きっと小型なら。すれ違うなんてとても無理だろうけどな!
草むらだからそこに突っ込んだらどうにかなるだろうけど。
ていうのが、そのわき道の幅。しかも、街道とはちょうど九十度の角度で、横に伸びていた。
どう頑張っても、道幅の狭い道にわざわざ曲がる馬鹿はいないだろう。
俺のように食料調達という立派な目的があったならまだしも。
それを迷えるなんて、ある種の才能だろう?
「知らないわよ!」
まるで叩きつけるような口調でレシアはもう一度言った。
「気付いたら、おかしかったのよ!」
「気付いたらって」
「私、ちゃんと道なりに歩いてたもの。自然って美しいわねうふふ、とか思いながら歩いていたらいつの間にかマーロウの姿が見えたんだからしょうがないじゃない?」
……美しいわね、うふふ。ってガラじゃないだろうお前。
とは、言っちゃいけないんだろうな。
『途中で気付きそうですけど』
カディは、呆れたような口ぶりで呟いた。
「気付かなかったわよ」
レシアは見えないカディの姿を適当に睨みつける。
精霊使い以外に普通精霊の姿を見ることはできない。ましてや声なんぞ聞くことなんてできない。まあ、喋るような特殊なのは滅多にいないんだから、聞けないことはたいした問題じゃない。
精霊主と主張するカディの言葉を認めてもいいなと思うのは、喋れるからってのと普通の人に姿を現せるその二点があるからだろう。
いや、積極的に認めたくないんだけどな?
レシアに見えるようになるのは簡単なんだろうけど、『目立ちたくないですから』という理由でカディは今はそれをしてない。ただ、レシアはカディのことを知っているので、声だけは聞こえるようにしているわけだ。
「悪い?」
『……いえ、私の知っている方にも方向感覚の優れない方がいらっしゃいますし』
「悪かったわね。どーせ、方向音痴よ! 自覚してるわよー」
レシアはカディの姿が見えないからか、変わりに俺のことを睨んで言う。
「いいじゃない、女の子はちょっと抜けてた方がかわいいものよ。うん」
『そうなんですか?』
こそっとカディが聞いてきた。知るかよ、そんなこと。
俺は二人の視線から逃れるべく顔をそむけた。
「お、なあなあ、あれ知ってるか?」
薄い桃色と、白い小さい花が街道から少し外れたところに群生している。視線の先に見つけたその花を俺は指差した。
「へ? お花?」
よく見えないのかレシアが目を細める。
『ソートに花を愛でる趣味があるとは意外ですね』
「話をそらしたいだけじゃない?」
だから、なんかお前ら俺のことを誤解しているだろう!
俺は二人を放っておいてひょいと道をそれた。
五十歩も行かずに花の側に着く。
「知ってるか? これ、蜜がうまいんだぞ」
『……感心するんじゃなかったですね』
「食い意地大王ね、あんた」
「どれほどうまいか知らないからそんなこといえるんだよ! いいか、これは砂糖もなしにあまーいジャムができるくらいの濃厚な蜜がでるんだ。ひたひたになるくらいの水を一緒に鍋にぶち込むのがポイントだ」
『妙に詳しいですね』
「春になると、そのジャム作ってパンに塗って食ったり、おやつに食ったり」
『食べ物のことになると』
俺は大きくうなずいた。食欲は生きていくうえで最も重要な要素だろう。食べなきゃ死ぬ。
花を一抱えくらい摘んで、二人の場所に戻る。
「ジャム作るワケ?」
「そっちのが好きだけど、ここで作るわけにゃいかないよな。ここからこう、蜜を吸うんだ」
「作れるんだ」
「腕はともかく、基本的な料理はできるぞ」
「食べるだけかと思ってたわ」
失敬な。師匠にその辺りもばっちり仕込まれたんだから、多分大丈夫だ。
味の保障は、できないけどな。まあ食えないことはない。
レシアが意外そうに目をむきながら、呟いた。
「その花に詳しいのはわかったけどさ、なんて名前なの?」
「――そいや、なんて言ったかな?」
『……やっぱり感心するべきじゃなかったですね』
どういう意味だよ、カディ。なんでそこで納得するんだよレシア!
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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