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3.
そして、翌日。
私と綾と先輩はこっそりと集まった。
昼休み、理科室。鍵は生徒会の権限か何かで先輩がこっそり持ってきて開けた。
綾の目の前には昨日あの後ケーキを焼くよりもよっぽど苦労してラッピングした包みが置いてある。
バレンタインの休憩時間はどこもざわざわと落ち着きがない、そんな中で理科室はやけに静かだった。
可愛らしいピンクの包みを目の前に、真剣な表情を綾はしている。
先輩もまた真剣な顔で口を開いた。
「海は、生徒会室だよ。他には誰も来ないことになってる」
「はい」
「もっとも、誰か他に海を狙っている人がいれば話は別だけどね」
「ええええー」
綾は情けない顔で先輩を見る。
「そこまで僕は保証できないよ。まあ、二年三年は海のことは眼中になさそうだし、残る一年だと君が一番有力だと思う」
「ほんとですかー?」
「あいつ、人当たりはいいけど実はなかなかうち解けないタイプだから」
こくこくこく。
綾はいつになく真面目にうなずいた。
「そろそろ弁当も平らげた頃だろうし、行ってもいいかな」
「了解デス羽村先輩」
ぎこちない動きで綾は包みを手に取った。ずっしりとした重みを大事に抱え込んで、立ち上がる。
「ではいってきま!」
敬礼するのは、緊張をほぐすためだろうか。
がらがらと扉を開け閉めして、綾はパタパタ走り始めた。
「廊下は走らない、って常識じゃないのかな」
呟いた先輩は言うほど気にしていないらしい。綾の走る音が消えると途端に教室の中は静かになった。
「うまくいくといいね」
「綾が幸せになるならそれがいいですね」
やがて沈黙に疲れたのか呟いた先輩に、私は答える。
思ったより冷たい言い方になった気がして、それを気にしてか先輩は悲しそうな顔をした。
「あのさ、昨日のことなんだけど」
「そうですよ」
そして言いにくそうに口を開く先輩を私は睨み付ける。
「言いたいこと言うだけ言って、帰るなんて卑怯じゃないですか」
「いや、君がオーブンに向かったし、あれ以上聞くのがちょっと怖くて。変なこと言っちゃったし」
「変なことって思ったなら最初から言わないで欲しかったです」
先輩は私から目をそらした。
「変なゲームとか言うからつい勢いで……」
「変なことってロボットの話ですかっ!」
「それくらいじゃないかな、変なことって」
先輩は心底不思議そうに私を見た。
「……そうじゃなくて、ほら、好きだなあとかそのへんです」
言うだけで恥ずかしい。
先輩は目をぱちくりさせた。
「それは変じゃないと思うけど」
あっさりとそんなことを言ってのけ、その後で顔色を変える。
「ごめん、気にしちゃった?」
「気にしない方が嘘ですよ」
先輩はうわうわとうめいた。
「ええっと、その、なんというか……」
先輩はぶつぶつあーだこーだとどう言おうか考えはじめる。
「ほんとにそうだから言ったんだよ」
そして何とかそう言って、「気を悪くしたんだったらごめんね」と続けた。
「言うだけ言って、自分は満足してた」
見るからにしゅんとする、その様子はさっきまで自信を持って綾にアドバイスしていたのとは全く別人で、思わず笑ってしまった。
それに驚いた先輩が目を見開く、それを見てから私は立ち上がった。
「ええと、その」
「先輩、昨日の話は置いておいて」
「え、あ、うん」
「休みの日に一緒にご飯食べて、買い物して、今日は学校でこうやって会っている」
「うん?」
「それってもう友達のようなものですよね。それじゃ、私は教室に帰りますので」
「え、あ、えーとそれはっ」
言うだけ言って、先輩の言葉は無視して私は教室を出た。
慌てて立ち上がったらしい先輩が、何かに当たって「うわぁ」という声も聞こえたけど、それは無視して。
告白したわけでもないのに頬が熱くなってきたような気がして、面と向かうのが恥ずかしい。
だから、がらりと扉を開けて勢いよく閉める。
とりあえず、友達からはじめるっていうのは悪くない。
顔が赤いのを見られると誤解されそうだから、私はとりあえずその場から逃げたした。
END
・当初の予定(綾の恋の話だった)からははずれたんですが、ほんのりらぶーな感じになったのではないかと……どきどき。
2005.02.14 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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