IndexProject2007夏企画

流しそうめん編 未夏視点

 縦半分に割った竹の節を削り終えてから細い竹で台を作ってコの字型に組み立てて、坂上は満足げに腕を組んで満面の笑みを浮かべた。
「できたねー」
 しばらく完成品をじっくり確認したあとで、坂上は額の汗をぬぐう。
「試しに水を流してみたいけど……先輩達帰ってこないね」
 春日井先輩と優美さんの妹さんが少し前にホースを買いに行ったけど、坂上が言うとおり帰ってこない。にーちゃんが待ちかねたのか小走りで道の方に出て、まだだとしょんぼりして帰ってきた。
「歩きだし、少し遠いはずだから――でも、もう少しじゃないかしら」
 時計を確認した優美さんの言葉に、にーちゃんはこくりとうなずいた。
「でも坂上君の言うことにも一理あるわね。ちゃんと流れないとそこから直さないといけないし」
 乗り気じゃなかった優美さんなのに、すっかりリーダー役みたいになっている。にーちゃんと二言三言交わしたあと、彼女はやかんを借りてくると言って家に戻っていった。
「やかんとは盲点だった」
 ぶつぶつ言いながらこっちにやってきたにーちゃんは、今度は坂上に話しかける。
「そろそろ実行だけど、そうめん流すのはどういう順にする?」
「じゃんけんか何かで決めたらいいんじゃないかな」
「春、この人数でじゃんけんは食べる前に餓死するパターンだぜ」
「そこが熱いんじゃない?」
「そうめん流しの順番決めに燃えてどうすんだお前」
 篠津君と原田君が近付いてきてそれぞれ呆れた顔をする。
「えー、でも」
「でもじゃない。腹減ってないのかお前」
「すいてるけど!」
 篠津君がお腹を押さえる真似で問いかけると力一杯坂上は言い切った。
「だったらくじ引きでいいんじゃないか? じゃんけんより効率的だ」
「でも祐司、くじを引く順番は?」
「いい年なんだからそんなところにこだわるな。ぶっちゃけ順番なんぞどうでもいいだろ。くじ作るからな……って、紙がないか」
 原田君は仕方なさそうにしゃがみ込んで、あみだでいいかと言いながら地面に何本も線を書きはじめる。人数分の線を書き終えた時に先輩達が帰ってきて、みんなでそれぞれあみだの場所を選んで、原口君の指示で横棒を何本かずつ書き加える。
 そうめんは充分準備されているみたいだし、順番でどうこうということもないと思う。厳正なるあみだくじの結果最初の流し手に選ばれた坂上はちょっと不満そうだったけど。
「腹減ってるのにー」
 ぶうぶう言う坂上に、日頃の行いだといくつも声がかかる。しょんぼりと落ち込んだ坂上は、でもすぐに復活したけど。
 やかんでのテストも成功して、ホースを流し台にセットしてもう一度水を流す。その水を少しずつ絞って調節したあと、気を取り直したように坂上は脚立に立って恭しく最初のそうめんの塊をお箸で取る。
「んじゃ、流すよー!」
 みんなお椀とお箸を持って、コの字型の流し台の好きなところに並んでいる。坂上の弾む声が庭に響き、そしてそうめん流しが始まった。
 そうめん流しはつまり、水の流れる竹の台に水と一緒にそうめんを流すただそれだけのことで、食べるのは普通のおそうめん。だけどいつもと違う行動が普通を普通じゃなくしてる。坂上は次々にそうめんを流すけど、お腹が減った男の子達がすごい勢いですくって下まで流れてこない。麻衣子達と仕方ないねって顔を見合わせるだけでも、何となく楽しい。
 最初は落ち込んだようだった坂上は、それが嘘のように張り切ってそうめんを水の流れにのせる。次々とすくわれるそうめんを、なんかしてすくわれないようにしようという勢いで、次々に。男の子達の間をすり抜けてようやく私たちのところまでそうめんがやってきて、麻衣子が「ようやく来たわ」と箸を差し出す。
「いい気の効かせ方ね、坂上にしては」
「……取られたことを悔しがってるみたいに見えるけど」
「なんでよ?」
「さあ……?」
 たくさんのそうめんの中、男の子達の間を抜けた分だけが角を曲がって私たちのところまでやってくる。上の方はサバイバルだけど、下流はのんきなもので、お互い遠慮しながら順にそうめんを取る。
 流れてくるそうめんを取って食べるだけでとてもおいしい気がする。雰囲気もあるのかな。料理は愛情ともいうけども、楽しさもいいスパイスなんだろうな。ここまで楽しくできるなんて想像以上だった。みんな楽しそうにお箸をのばして麺をすすってる。
 先輩のおばあさんが茹でておいてくれたそうめんはあっという間になくなって、ちょっと物足りないくらい。時計を見るといつの間にか一時間近く経っていたから驚きだった。
 買い足しに行くべきかの相談は、先輩のおばあさんの作ってくれた料理を食べたらいいんじゃないかという結論に達して、家の中で食事を続ける。
 食べ終わったあとの片付けも、半分お祭りみたいな騒ぎだった。楽しい時間はすぐ過ぎるって言うけどまさにそんな感じで、気付くと夕方。日の長い季節とはいえ来た道を戻ることを考えると長居はしていられない。
 残った料理まで手土産で頂いてしまって、先輩のおばあさんにはさんざんお世話になってしまった。全員でお礼を言って来た時と同じように別れて車に乗り込むと、先輩のおばあさんはよければ来年またおいでとまで言ってくれて、もう一度お礼を言って。
 それからワンボックスは帰りまで優美さんと一緒じゃないとぼやくにーちゃんの運転で動き始めた。
「来年かあ……また来たいね、未夏ちゃん」
「うん、そうだね」
「見せつけるよねー、二人ともー。あああ、何でここに優美がいないんだろー」
 顔を見合わせる私たちをにーちゃんが振り返り、ローテンションな響きで歌うようにぼやいて雰囲気をぶち壊して車内からブーイングを受ける。
 にーちゃんってば、運転手なのに後ろ向いたら駄目じゃない。何かあったらみんな困るのに――そうは思うけど、何事もなかったから小さなハプニングも楽しい。
 本当に、また来れたらいいな。来年の私たちは大学生で、お互いに新しい生活に入って色々なことが変わるんだろうけど、今と同じように坂上と……みんなと一緒に色々遊びに行けたらいいな。

2008.01.11 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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