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二章 1.朝のお話〜フィニーの場合〜

 目覚めると、まず一番に顔を洗うのだ。
 フィニー・トライアルは柔らかいタオルで顔を拭くと、うーんと伸びをした。
 着替えるのに、そう時間はかからない。腰まである髪は手櫛で整えるだけでちゃんとなる。
 くるりと一回転。ふわっとスカートが膨らむ。
「大丈夫、ね」
 身支度は完璧だ。
 起きてからそう時間はかかっていない。自分の世話に時間をかける暇などないわけだし。
 与えられた部屋は身分にしてはずいぶんといい。奥行きがある。幅は狭いが、広いといえよう。
 ベッドと、鏡台と、クローゼットと本棚の他には、たいした荷物はない。鏡台は机も兼ねていて、櫛や化粧道具のかわりに紙とペンが散らかっているのは、一応彼女が魔法使いでもあるからだろう。
 魔法使いは勉学が好きなものなのだ。勉強好きでないとわざわざ面倒な決まりごとの多い魔法など身につくはずはない。もっとも、才能がなければいくら勉強好きでも身につかないのではあるが。
 一応鏡に顔を映す。
 綺麗な金髪。黒い瞳だけは昔とまったく変わらない。顔つきは変化している――成長したのかどうかは微妙なところだ。外見よりも内面の成長の方が重要ではあろうが、ここ数年、たいして変化してない気がする。
(まあつまり、子供ってことですわ)
 思うと同時に眉間にしわがよったので、慌てて伸ばしてみる。
 しわ。眉間にしわが常駐するようになったらものすごく嫌だ。
 しばらく顔のマッサージをした後に、はたとこんな場合でないと気付いてフィニーは部屋を飛び出した。
 飛び出しても、そこはまだ自室ではある。目の前にすぐ、今度は廊下に続く扉。左は王女の私室に続く扉。右には何もない。
 姫君の――レスティーの部屋の左右にフィニーとエルラの部屋はある。
 宮殿の一角、本来ならば近くのほかの部屋にも姫様付きの侍女が部屋を与えられるはずなのだが、現在のところ侍女と護衛と2人しかいないのでそれらの部屋はまったくの空き部屋だ。
 右側の扉を開ける。
 仮にも王女の部屋に無断で入り込めるのがその左右の部屋を与えられたものの特権だ。
 ただしそれが果たしていいものなのかどうか、フィニーにはあまり良くないものと思う。
 後ろでに扉を閉じる。
 正面はエルラの部屋に続き、右は廊下。残った左が姫様のいる場所。 
 左の扉を躊躇なく開く。
 一般の家庭では、この部屋は居間とでも呼ぶのだろう。いかにエルムスランド家が質素を旨としていても、仮にも宮殿、仮にも王女の私室である。
 中央にちょこんとテーブル。床にはふかふかした絨毯。暖炉もある。壁には著名な――だろう――画家の絵。案外広いが、使っているのは真ん中だけなのはもったいないかもしれない。
 とはいえ、この部屋にはいつも三人しかいないし、周りの空間を有効活用する手は思いつかないので仕方ない。
 さらに奥にレスティーの寝室に繋がる扉がある。そこまでやってきて、フィニーは立ち止まった。
 さあ、仕事の始まりだ。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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