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エピローグ
披露宴はそのまま、特に何事もなく終わった。友人スピーチで明かされるあれこれはそれなりに驚きに満ちていたけど、すべて本当のことを言っているかは怪しかったし。
だって信じられる?
あの、真面目でそつがないとだれしもが認めるお局様が学生時代は天然ボケだったなんて。宿題を忘れがちだった小学生時代のエピソードは微笑ましいとしても、そのノリで成長した人があんなワーカホリックになるものですか。
つつがなく主役たちは退場し終え、招待客たちはそれぞれ身支度を整える。
私は同じテーブルのお三方に簡単に暇を告げて立ち上がり、重くはないけれど軽いわけでもない引き出物の袋を手に高砂の真ん前の上司席に向かう。
いい式でしたねえと世間話を振りながらぞろぞろと移動した。課長も部長も私と同じくお局様の昔話には驚いたらしく口々に信じられないと言っていれば出口はすぐだった。
大きな扉の先には新郎新婦とその両親が並んでいた。それぞれカゴを手に持った今日の主役がプチギフトを配っている。
レースの付いたメッシュ生地の白い小さな包みを私に手渡すお局様は、やっぱりいつもと一味違っていた。
「おめでとうございます」
なんと言っていいのかわからない私は何のひねりもないことを口にしながら包みをただ受け取るだけ。
「折角のお休みの日に、ごめんなさいね」
そんな私にお局様は申し訳なさそうに言ってくる。いやもう、本当、驚くってば。隙のないお局様が誰かに謝るところなんて見たことがない。
「ああ、いえ、別に、その、何の用事もなかったですし」
動揺のあまり返事はしどろもどろになった。
「ええと、お二人でお幸せになって下さいね」
私の様子を気にした素振りもなく、お局様はちらりと真横の新郎を見る。
「ええ、ありがとう」
それから私に視線を戻した時には柔らかく微笑んでいた。免疫のない私に幸せそうなお局様の笑みは破壊力が大きい。
軽く頭を下げてお局様の前から逃げ出し、離れたところで大きく息を吐いて衝撃を逃がす。
今日まではこの結婚、営業のエースだけが喜んでるんじゃないかと思ってたけど、お局様も実は満更じゃなかったらしい。
仕事中には見えなかった本音が、豊かな表情で今はダダ漏れだわ。恐るべし、結婚式効果。
週明けにあれこれ聞かれるだろうから話すけど――信じてもらえそうにないわ。だって、この目で見た私もまだ信じ切れないもの。
ばっちり笑顔の写真でも現像して、証拠にするしかないかしら。なんてなことを思いながら、私は会場を後にすることにした。
2009.07.22 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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