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車中編3 水葉視点
「今日はお世話になりまーす」
私が頭を下げるとようやくねーちゃんは機嫌を直したようだった。けーたが馬鹿みたいに飛び出してったのが悪いのに、何で私が責められなきゃなんないかなー。
けーたとおっかけっこの最中に突然ねーちゃんから連絡があったのにも驚きつつ、挟み撃ちするように馬鹿弟をとっ捕まえて。それからじろ兄の後輩グループってのの中にねーちゃんの彼氏の妹さんが入ってるってことを知ってさらに驚いた。
だからねーちゃんがいるんだ、おもしろーいって言った瞬間にねーちゃんにはたかれたけど、他の人が笑ってくれたからまあよし。じろ兄の仲間にはノリがいい人がいていいことだ。
「えー、ちょっと、ねーちゃん彼氏放っておいていいのー?」
せっかくだしぜひとも一緒のワンボックスに乗りたかったのに反対されたあげく、逆にこっちの車にねーちゃんが乗ってくることになったのにはげんなりした。
「いいわよ」
「じゃあ私あっちに乗ろうかな〜」
「迷惑かけるからやめなさい」
「迷惑かけるの前提ッ? ねーちゃん私のこともうちょっと信用してくれてもいいんじゃない?」
私の提案をねーちゃんはあっさり切って捨てる。ねえとじろ兄に援護を要請してもあっさりスルーされた。
そうだった。じろ兄は大抵ねーちゃんに味方する人だった。二人とも真面目だから困る。
「でも、本当に大丈夫なのか? ゆっこねえは彼氏放っておいて」
と、思いきや。少ししてからじろ兄は援護をしてくれた。だけどねーちゃんはふっと笑ってあっさり首を縦に振る。
「いいのよ」
ねーちゃんの彼氏がワンボックスに乗ろうとせず、こっちを見ている。「気を変えてこっちに乗ってくれないかなー」って思ってる顔だアレは。間違いない。
「いい薬になるわ。ほら、だしてじろ君」
じろ兄はゆっこねえの指令に従って車を出す。さっきじろ兄は向こうの車のカーナビに目的地を入れたらしいけど、一応待つつもりなのか曲がり角の手前でいったん止まる。
「……ゆっこねえ、あの彼氏とうまいこと行ってるのか?」
ルームミラー越しにねーちゃんの彼氏が諦めたように車に乗り込むのを見ていると、じろ兄が不安そうにそう言った。
「は?」
ねーちゃんに視線を移すと、予想外のことを聞かれたという顔をしている。じろ兄は心配だと言わんばかり。
「……うまいこと、って」
じろ兄の真剣な顔を見てねーちゃんは不思議そう。
「どういうこと?」
「いや、彼氏放ってこっちに来たから……うまくいってないのかなって」
「そう」
ねーちゃんは納得したようにうなずく。
「そう、って……やっぱりうまくいってないのか?」
淡泊なねーちゃんの言葉を心配性のじろ兄は不安に思ったようだった。
「やっぱりってどういうことよ」
「いや――あの人、ゆっこねえとだいぶタイプが違うと思って?」
ねーちゃんのうなるような言葉にじろ兄は少し引いた。
「確かに違うけど、ねーちゃんにはちょうどいいんじゃない?」
「あんたねぇ……」
「だって、あのにーちゃんくらい押しが強くないとねーちゃんは手に負えないんじゃないかなー」
「みーこ!」
私の言葉にねーちゃんはかみつくように声を上げる。
ルームミラーの中でじろ兄が眉間にしわを寄せて先を促すのがわかったから、私は軽く身を乗り出した。
「だってねーちゃん、内弁慶だからよそでは静かだもん」
「あんったねええ!」
ご機嫌を損ねたねーちゃんの腕が伸びてきて私の頭をがしりとつかむ。
「そういう余計なことをべらべら話すんじゃないわよ」
「でも事実だし。ねえじろ兄?」
「いや、それはそうにしろ、だとしたらゆっこねえあの人の前でストレスたまってるんじゃないか?」
じろ兄は私が求めた反応じゃない別の心配をし始める。
「――むしろこっちにいる方がストレスになるわ……」
なんでそこで認めるようなことを言う訳よじろ君は――ねーちゃんはぶつぶつぼやいた後、深いため息をついた。
2007.11.06 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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