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到着編
途中に道の駅でのトイレ休憩を挟みつつ、二台の車は目的地付近へとたどり着く。
「どこになるのかなーっと」
目的地付近に着いたとアナウンスした後で意味のないものと化したナビを一瞬確認し、武正は首を伸ばして一台前の乗用車を見ようとする。
本当ならばすぐ後ろにつけたかったが、途中で割り込みされたので仕方がない。
春日井の祖母宅は鷹城市の外れに近いのどかなところにあって、前を走るのも荷台に何かを積んだ軽トラック。そのうち畑なりなんなりに行くだろうと踏んでいたら、予想通り軽トラックは細い道にそれていく。武正はアクセルを踏んで再び誰かに入り込まれないように車間距離を詰めた。
「十時か。準備に手間取ったとしても、お昼過ぎにはそうめん流せるかな」
「そうだねー」
わくわくと坂上が身を乗り出してデジタル時計を確認して呟くと、軽く武正は応じた。
「竹林から竹を切り出すところから始めるんだろ。そんなにすぐ出来るのかー?」
「何でお前はそう水を差すんだ」
最後部から祐司が問いかけると、斜め前の篠津が嫌そうな顔をする。
「経験者が一人もいないのに順調に作業出来るとも限らないだろうが」
「そこはそれ、気合いでカバー!」
「協力すれば何とかなるって」
口々に前向きな発言をする坂上と武正を見て祐司は静かに頭を振った。
「小中さんのお兄さんはともかく――利春、お前そういって去年のハロウィン、一番ランタン作るの遅かっただろ」
「い……いや、そんなことはなかった気が……」
「目が泳いでるぞ」
「うう」
祐司の指摘したことはしっかり記憶に残っているらしい。逃げを打った坂上は祐司から視線をそらすように前を向いて「いいよねえハロウィン。またするなら俺も呼んで欲しいなー」と言っている運転手に「受験生なので今年は無理ですけどその次くらいには」などと応じはじめる。
「心配することはないんじゃないか?」
呆れてため息を吐く祐司に篠津はそう声をかけてきた。
「激しく不安なのは俺だけか?」
「かぼちゃの時は、あれだろ」
坂上と未夏の注意が自分に向いていないか確認して、篠津は友人に顔を寄せる。
「小中さんが予想外にいたもんだから調子が狂ったんだろ。今回は彼女にみっともないところを見せたくないから頑張るだろうぜ」
「お前にしてはいい推察だな」
「褒めてないだろそれ」
篠津は眉間にしわを寄せ、祐司をにらみつけた。
「うっわ、こんな坂登るわけーッ」
険悪になりかけた雰囲気だが、それをぶちこわすような声が運転席から響いて車内が軽く揺れる。
「あー、下こするかと思った。さすがに平気かぁ」
「なんだあー?」
祐司から顔をそらした篠津が腰を上げる。
「この先みたいだよー」
後部座席の騒動など知らぬげな武正がのんびりと篠津に答えた。
コンクリートで固められた傾斜のある道は、公道と言うよりは私道といった趣。道なりにある民家は古き良き雰囲気を残す佇まい。
「駐車場とかあるのかなあ」
敷地面積は市内中心部に比べれば大きいが、二台か三台しか止まれないような家がほとんどで、武正は心配そうに呟いた。
「その辺、ぬかりない先輩だと思うけど」
どうかなあと坂上が続けようとした時に、道の終わりがやってきた。それこそ車の下をこすりそうな急角度が付いて道が終わり、平坦な地面が現れた。そこから車が通れるだけの幅を置いて正面には目隠しのように木が植わっている。前の車は慣れた様子で右に回り込むように走り、武正もその後に続いた。
植え込みの奥には広い庭を挟んで平屋の住宅。植え込みのすぐ後ろ側に乗用車は止まり、中から素早く出てきた春日井がワンボックスを導いた。
2007.11.27 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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