IndexProject2007夏企画

準備編4

 優美と水葉の運んできたお茶で女性陣は一息ついた。
「外、なんだか相談してるみたいだけど……問題があったのかな」
「作業を割り振ってるんじゃない?」
 そわそわ外を見て呟く未夏に麻衣子はけろりと答えて、一人離れたところで様子を見守っている祐司の様子を観察する。
 どことなく呆れている様子が見受けられて、だから誰かが余計なことを言い出したんだろうと感じた。十中八九言い出しっぺは坂上か篠津、道中の坂上との気の合い方と未夏のこれまでの発言を考えると、未夏の兄・武正という線も捨てがたい。春日井先輩はなんだかんだでつきあってるんだろうなあと心の中で手を合わせてあげた。
「春日井先輩ってさ、何て言うか無駄にいい人だよね」
 こっそりとささやいたつもりが離れて座っていた水葉がぶはっと吹き出したので麻衣子は内心後悔した。
「や、ね、そう思わない?」
 誤魔化すのもどうかと思って同意を求めると、水葉はまじめくさった顔でこくりとうなずいた。
「いい人で終わっちゃうのが難点だと思うな」
 さらっと続いた言葉に驚いたのは室内にいた全員で、一番に吹き出したのは麻衣子だ。
「みーこ! あんた言っていいことと悪いことの区別つかないの?」
 眉間にしわを寄せて文句をつける優美以外は何と言っていいのかわからず沈黙を守る。
「だって、他の人みんなカップルなのにじろ兄だけ一人だしさー」
 言いつつ水葉は優美から逃げるように身を引いた。
「じろ君は奥ゆかしいのよ」
「奥ゆかしい?」
 素っ頓狂な声で水葉は繰り返し、窓の外を見る。
「……あー、奥ゆかしいといえば奥ゆかしいのかな。じろ兄に似合わない言葉だけど」
「似合わないは余計。あんた、そろそろその口を何とかしなさいよ」
「性格だもん」
「損するわよ?」
「ねーちゃんもね」
 優美は深々と溜息を漏らしてゆっくりと立ち上がる。
「外にお茶持って行くわ」
「あ、じゃあ手伝いますー」
 妹への忠告を諦めて立ち去る優美を未夏が追う。あれこれ話しながら去っていく二人を視線で追って、水葉は肩をすくめた。
「怒っちゃったなー」
「お姉さん、今日は朝からご機嫌斜めだったんじゃないかしら」
「ねーちゃんは真面目すぎて損してると思うな私」
 麻衣子が後ろから声をかけると、水葉はぼやくようにする。
「じろ兄は心配性で損してると思うけどね」
 窓の外でようやく作業が始まるのか、固まって相談していた面々が散らばっていく。
 そこにお茶のボトルを抱えた優美と、お盆にグラスを載せた未夏が近付いていった。いったん散らばったメンバーがわらわらと集まり、お盆からグラスを取ると優美がそこにお茶を注いでいく。
「じろ兄って、ねーちゃんのことがけっこー好きなんだよね」
「え?」
 さらっと言われた言葉が幻聴かと思って麻衣子はまじまじと水葉を見た。
「そうなの?」
 麻衣子は思わず小坂を見た。
「――先輩はてっきり、彼女狙いだと思ってたんだけど」
「ちょっ、何を言ってるの、里中さんっ」
 静かに会話の行方を見守っていた小坂が慌てて声を上げる。
「だって、魔女と取り巻きの話は有名だし?」
 何それっと興味津々で瞳を輝かせる水葉を無視して、麻衣子はからかい混じりに小坂を見つめた。小坂はとんでもないとばかりにぶんぶんと首を振って否定してきた。
「そんなの根も葉もない話なんだからッ」
「実際、見たところ本気で思ってるのは篠津君と羽黒君くらいかなとは思うけど――春日井先輩は、ほら。それこそ奥ゆかしいし無駄にいい人だから人の恋路は邪魔しない感じで密かに思ってるんでないかなと」
 顔を真っ赤にして否定の意を告げる小坂はあだ名されるクールビューティとはほど遠い。
「じろ兄が密かに思うタイプなのは間違いないよね。好意はにじみ出るんだけど」
「あー、やっぱり?」
「じろ兄、私とねーちゃんとだったら絶対ねーちゃん取るんだもん。ある意味わかりやすいんだって」
「待って待って。あのね、春日井先輩はね、新君の運動神経を求めて部活に勧誘しようとしてただけで、私がどうこうは全然ないのよ?」
 一気に仲良くなって話を進める二人に小坂は必死で告げる。
「わからないわよ〜」
 からかうように麻衣子が言えば、
「本心はわからないけどね〜」
 と水葉が合わせるように続ける。口がうまくない小坂は諦めて口をつぐんだ。
「……でもじろ兄が人の恋路を邪魔しないかどうかはわからないなあ」
「そう? そういうことしそうにないタイプと思うけどなあ」
 あまり言っても申し訳ないと思ったのか水葉が話を変える。麻衣子は首をかしげながら窓の外を見た。
 武正と優美がなにやら言葉を交わしている。会話の内容は想像もつかないが、それを見て春日井が複雑な顔をしているのが麻衣子にもわかった。元々祐司が親しい人だからそれなりに面識がある程度でそこまで親しい訳じゃないけれど――水葉の言葉でかけてしまった色眼鏡越しには確かに嫉妬している節があるような気がした。
「じろ兄、ねーちゃんの彼氏が気にいらなかったっぽいもん。性格が合ってないのがストレスなんじゃないかってしきりに心配する感じだったし」
 面白いことになるんじゃないかなあと水葉が呟くと、納得した麻衣子が確かにねえと応じる。二人が顔を見合わせてにやりと笑うのに、小坂だけは意味がわからずにきょとんとそんな二人を見つめた。

2007.12.18 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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