Index>Project>2007夏企画>
準備編6 春日井視点
「どうしたのー?」
突然声を上げたゆっこねえの彼氏が見ていたのは、お茶のボトルを抱えたゆっこねえだった。
「暑いでしょ。のどが渇いたかと思って」
「わーい、さすが優美は気が利くなあ」
「余計なこと言わないの」
喜色満面でゆっこねえの彼氏はゆっこねえに近付いていき、その様子にゆっこねえははっきりと顔をしかめた。
「余計なことじゃないよ。こういうことをおろそかにすると簡単に人はすれ違ってしまうんだよ、ほんとだよ」
「あー、えーと、まあそうかもね」
小中さんと一緒にお茶を差し入れに来てくれたみたいだから、俺はここぞとばかりにゆっこねえ達に近寄った。軽いノリで意外と真面目なことを告げる彼氏の言葉をゆっこねえはあっさりと流す。
ああ、あの彼氏は――どこかみーこに似たところがあるんだなあ。
俺はふっとそんなことを思った。仮にみーこが同じことを言っていたら「馬鹿言うんじゃないの」と軽くあしらうんだろうけど。何度も繰り返し見ていたことだから、その様子はまざまざと想像できた。
「というわけでありがとー優美ちゃん」
小中さんが差し出したグラスを受け取った彼氏はにこにことゆっこねえが傾けるボトルからお茶を受け取る。
「はいはい、どういたしまして」
「もうちょっと感情を込めて言ってくれてもいいと思わない?」
「どう感情込めろって言うのよ」
「心の奥底から?」
ゆっこねえの彼氏のあしらいがみーこに対するほど鋭くないのは……なんでだろうな。
首をかしげてゆっこねえの反応を待つ彼氏の姿を見て、ゆっこねえは深々と溜息を漏らした。
「そんなの無理よ」
「ばっさり切られたっ」
「切ってないし」
やれやれと言いたげな顔で彼氏を振り切ると、ゆっこねえは小中さんにグラスを渡されてお茶を待つ俺や他のメンツに次々に茶を注いでくれた。
「えー、切った。切ったってば」
「切ってないってば」
そんなゆっこねえに彼氏はまとわりつくようにしている。
これがみーこ相手だったら――それこそもっとばさりと切っただろうなあと思う。そして相手がみーこだったらそこそこのところでどっちも諦める。お互いの呼吸がわかってるから、それなりで切り上げられるんだと思うけど。
それに比べてゆっこねえの彼氏はめげないし諦めないし、しつこすぎないか?
こう、ゆっこねえの彼氏になるのはもっと大人で落ち着いた人だと思ってたんだけどなあ。みーこの人物評と実際を照らし合わせると、全く違うとしか言いようがない。
「見せつけるねえ」
俺がゆっこねえ達の動向を見守ってると後ろからひゅぅっと口笛が聞こえた。振り返ると新がにやりと笑いかけてくる。
「見せつける?」
「小中さんの兄さんと彼女さん」
「決して仲良さそうじゃないと思うが」
「わかってないねえ」
「何がだ」
新はにやにやと笑うだけで答えをよこさない。ただ、後ろに立つ祐司になあと同意を求めると、求められた方はあっさりとそうだなとうなずく。
長いことつきあっているという利春の情報が真実だとしたら、そりゃあ――仲が悪いことはないんだろうけど、な。
みーこの言うとおり内弁慶なところがあるゆっこねえが、それなりに手厳しく対応してるってことは道中の予想に反してゆっこねえは彼氏に気を許してるってことなんだろうけど。
でも、やっぱりなんか納得いかねえよなあ。
俺は内心呟いて、だがどうすることも出来なくて、ゆっこねえが注いでくれたお茶を飲み干すと作業に集中することにした。
2007.12.22 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
感想がありましたらご利用下さい。