精霊使いとその師匠〜ある日の朝の食卓で

▼ あっさりめにしとくか。

 俺は庭に向かうことにした。
 台所の奥の扉を開けてすぐの裏庭には、師匠が育てている野菜が数種類ある。
「新鮮な方がうまいよな」
 っていうのが、師匠の主張。俺たちが住む屋敷の周りは森に囲まれているから、実際問題そっちの方が食材が豊富なんだけど。毎日取りに行くのも大変だし、近場にあればいいなって師匠が数年手間暇かけて裏庭に菜園を作り上げた。
 森じゃあ手に入らないし近所の待ちでも手に入らない、どこだかの国が原産の野菜とかもわっさわっさ育ててる師匠はつくづく食うのが好きだなーと思う。
 食料庫にもたんまり色々ため込んでるから、師匠は。
 食うどころか、作るのも好きだってことなんだろうな。俺も食うのだけは負けないけど。



 俺はいくつかの野菜を収穫して台所に戻る。食料庫からもいくつか食材を取り出して、そこで調理開始。
 今日は簡単に野菜をちぎって盛りつけたサラダに適当に材料を混ぜたドレッシングをかける。かりっと焼いたベーコンがポイントだ。
 もちろんそれだけじゃ足りないから、昨日の晩に師匠が作ったシチューの残りを温める。スクランブルエッグを作って、パンも出した。
 そうして準備が出来たタイミングを見計らっていたように師匠はやってきた。
「おはようソート」
「おはよー師匠」
 二人そろっていただきますをして、食べ始める。
 俺的に今朝のメインは、自分で作ったわけでもないシチューだ。あっさりとほど遠いかもしれないけど、俺も師匠も大食いだからサラダだけじゃ足りない。
 そのままで食べてもうまいし、パンを浸してもいい。
 唯一難点をあげるなら、師匠はでっかい鍋に大量にシチューを作り上げるから、シチューの日まで数日牛乳がおあずけになることだろうか。
 三食食べておおよそ二日分、おいしいものはそれくらい続けて食べても平気だし、大量とは言ってもちょうどいい量を師匠は作ってるんだ。
 食っている間は静かなことが多い。だから、師匠が口を開いたのは大方食事が終わったところだった。
「そうだ、明日くらいにフラストに行くぞ」
 師匠がフラストって言うのは、つまりは王都のことで突き詰めて言うとその中心にある王宮のことだ。
「ぅえ」
「変な声出すなよ」
 喉にパンを詰めかけてげほげほする俺を見て、師匠は「大丈夫か?」と心配そうな顔になる。
「ちょ、師匠それ、何突然」
「ほんとになー。人の都合を考えてないよな、あの陛下は」
 師匠はどうも国王陛下とはそりが合わないらしい。そのくせ、呼ばれて時々行くんだけど。
「なんか連絡でもあったのか?」
「朝イチで伝書鳩なんて迷惑な話だよな。いや、それは悪気があったんじゃないだろうが」
 ぶつぶつ言う師匠はどこか苦い顔。
「まあそういうわけで、準備しとけよ」


 ▼ 「わかった」
 ▼ 「えー」

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