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精霊使いと国境越え

 なーにが、「乱れてる」なんだか。
 はっきり言って俺にはさっぱりわからない。
 見回すと、レシアもカディもきょとんとしている。――あたりまえか。
 そんな単語で分かったら、世の中に「文章」なんてもんはいらない。
 飯、とか単語だけで分からないこともないけどさ……「乱れてる」ってなにがだよ。
『チーク……』
 まるで頭痛でもこらえるかのようにカディは額に手をやった。
『乱れているって――何がですか?』
「大地」
 どこか遠くへ視線をやった――のか、それとも単にボーっとしているのか。
 チークはともかくどこかを見やりながら言った。
『大地?』
 カディは問い返した。 
 地の精霊主ってことは、こと大地に関することにかけてはきっと誰にも負けないんだろう。
 そう信じたい。
 なんかチークはどうも――地面は直視してないんだけど。何でだ?
 俺は辺りを軽く見回したが、別段違和感などなかった。
 地の精霊たちは別段なにも妙なところなんてなく、ぼへぼへしている。
 ……よく考えたらなんとなく、チークに相通ずるものがあるかもしれない。くぅ。本当に精霊主なのか?
 で、でも! 別に水の精霊は「だわ」じゃないんだよな。あんまり精霊主と精霊が似ているものでも――って、普通精霊はしゃべらないもんだからあれか。
 しゃべりだしたら「だわ」とか言い出したりするのか? 水の精霊は。 
 こわー……。じゃ、なくて!
 カディも俺と同じく辺りを見回したし、精霊が見えないレシアは今度はチークの代わりに地面をぺちぺち叩いている。
『どこがですか? 別段おかしくないようですが』
 カディにチークはふるふる首を振ってみせた。
「…………少しずつ、おかしい」
『はあ』
 俺と同じく納得できてない顔でカディは生返事をした。
 チークはこっちへ視線を戻す。
 ぼう、とした瞳の中にわずかに別の物が見える気がして、俺は黙ってそれを見つめた。
「………だから、いる」
『だからここにいるんですか?』
「………」
 こくん。
 チークはきっぱりうなずく。
 そのまままた沈黙が落ちて、俺はわけもなく暴れたくなった。
「で、だからココにいて何がしたいんだよ?」
 何とか衝動をこらえて俺が聞くとチークは首をかしげた。
「………さあ?」
「さあじゃないだろー?」
 できることなら胸倉を掴み上げたいところだが――仮にも精霊主にんなことできないし。
 こんなとこでチークが語りだすのを待っても、かなり無意味だと思う。
「あー、もう。ここでうだうだ言ってても仕方ねーや。とっとと町行って飯でも食いながら話そう」
『食い意地天下ですねぇ』
「なにがだよ。栄養補給は大事なんだからな!」
 何が天下なんだよ、カディ。
「補給しまくってるって気もするけどねー、ソートの場合」
「健康的な若者だからな。腹は減るんだ」
 なーんか俺を誤解してないか? レシア。
「………」
 頼むから黙って見つめんなってばよ、おい。
 俺は内心チークに突っ込んで張り切って町に足を向けた。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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