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精霊使いと魔法国家

8章 2.覚悟を決めて

 セルクさんとオーガスさんがそれぞれ戦いを開始して、さて俺はどうするかと目を移す。
 相変わらずのカディの様子を見ると途端に気力が萎えそうだけど、そんなこと言っていられない。しっかり彼らを見て、対策を考える。
 セルクさんに魔族の男。
 オーガスさんにバーズナ。
 俺にカディと火主。
 スィエンは特にオーガスさんをバックアップするわけでもなく未だファイティングポーズを取ったまま。チークはそのお目付役とばかりに彼女の少し後ろに控えている。
 バーズナが手一杯になったのかカディ達がすぐにこっちに襲いかかってくるようなこともなく、考える時間は少しありそうだった。
「なあ、スィエン――」
『なんなのだわ? ああ、そうだわ。スィエンに一声かけるといいのだわ!』
 振り返った彼女は身構えたまま声を張り上げた。
『そう、そうなのだわよ! ソートが一声よしと言えばスィエンはすぐにそこの男をどーにかするだわよ』
 思いついたことを思いついたまんま言ったようで、スィエンの言葉は微妙にわかりにくい。
『カースはいいとしても、カディに手を出した報いは受けるといいのだわ!』
「よくないだろ、火主がおかしいのって」
 俺のまっとうな突っ込みにスィエンは唇を尖らせる。そんなに火主が嫌いなのかと思わず尋ねたくなった――そんな場合じゃないから、言わないけどな。
「えーと、チーク。悪いけど、こっち手伝ってもらえるかな」
 言葉で意思疎通できる分スィエンの方がいいんだけど、対カディ・火主だってことを考えると彼女の暴走が恐ろしい。バーズナが余裕を取り戻して二人に命令したときに、スィエンが冷静さを失ってしまったら俺の身が危ない。
 こくりとうなずいたチークがこっちにふわりと近付いてくる。
『スィエンはあっちを攻撃すればいいだわ?』
 その間にスィエンが手をわきわきさせながら聞いてきた。あっちと指さしたのはオーガスさんと戦うバーズナだ。
 いいと言えば今にも飛びかかっていきそうな様子に、俺は何で神様が精霊主の力を一部封じているのか理解できた気がした。
 はっきりとした意志を持たない精霊が暴走する危険はないだろうけど――そうじゃない精霊主が暴走する危険性があると考えたんだろうなって。
 だからって封印を解く鍵を俺みたいなごく普通の精霊使いの手にゆだねられてもそれはそれでどーかって思うんだけど、な。
 偉大なる神様には神様なりのお考えがあるんだろう……多分。少なくともスィエンより俺の方が冷静だし、今に限って言えば間違ってないと思う。カディと俺とじゃ、明らかにカディが冷静だけどな。
 俺は軽く息を吐いて、頭を振った。
「セルクさんの手伝いをしてくれ」
『あれだわ?』
 言った瞬間にスィエンはセルクさんと相対する男を指差した。俺は一つうなずきを返す。
「セルクさんの方が分が悪いだろ」
 そいつの方が黒幕だからなんて言ってスィエンが張り切りすぎても困るし、スィエンまでバーズナに何かされるのも怖いと言ってもわかってもらえそうにないので、別の理由を口にする。スィエンは顔をしかめつつうなずいた。
『よゆーそうに見えるだわけどね。ソートがそう言うんなら仕方ないだわ』
 スィエンは文句を言いながらもセルクさんの所に向かった。それにしてもセルクさん、性格で損してるよなー。
 オーガスさんの注意を引いてフォローを求めてるのか時々ぎゃわーだのうげーだの大げさな声を上げるところとか、確かにスィエンの言うとおり余裕そうには見えるんだけどな。実際は厳しいんだと思う。
『ソート』
 チークが静かに呼びかけるから、俺は意識を彼に向けた。すっと上がった手が、カディ達の方からやってきていた炎を消していく。
『先にすることがある』
 俺がよそ見している間に、バーズナはカディ達の力を使う余裕が出来たらしい。呪文もなしに魔法が使える利を生かしてオーガスさんと戦いながら、きっと口では何か命令してるんだろう。
「チークが攻撃を防いでる間にさ、俺とオーガスさんとでバーズナを縛り上げたらゆっくりカディ達に対応できるんじゃないか?」
 チークは片手を前に出したまま、ゆっくり首を振った。逆の手を黒幕の男に向けて、俺の顔を横目で見る。
「相手が人間じゃないなら、先に味方を増やすに限る、か?」
 少し首を傾げた後、チークはうなずいた。
「間違ってるなら指摘しろよ。目と目が合っただけで思考なんて読めないんだからな俺」
『……それよりも、早く』
 いつもの平坦な声がやけに必死に聞こえたので俺は文句を中止した。チークがほとんど喋らないのはいつものことだし、今ここで言うことでもないし。それに一対二で攻撃を防ぐのは、例え神様の定めとはいえ厳しいのかもしれない。
 目を逸らしたかった現実を直視して、腹に力を込める。
 カディの目には敵意しか見えない。ちらとでも普段の様子が見えないのが寂しかった。
 さあ歌うか、それとも話すか。どっちがいいだろう。
 師匠の顔とグラウトの顔が交互に浮かんで、そして消える。ぐっと拳を握りしめて、意を決する。
 前は確かに歌に効果があった。でも最後に歌うのを止めた後、俺の言葉で状況が変わったはずだ。俺の言葉の何に効果があったのかさっぱりわからないのがあれだけど、相手の一人がカディなら自分で何か言った方がよっぽど効果的だ――と思う。
 俺はごくりと息を飲んで、唾液で喉を潤す。
「なあ、カディ」
 意を決して口にした言葉は予想外にかすれて、カディに届いた気配がない。その証拠とばかりにカディ達の攻撃は止まらない。
 チークが俺の前でふわりふわりと手を動かし、その攻撃はきれいに消えていく。危険は全くないけど、だからって危機感を感じないわけがなかった。
 チークの表情はいつもと変わらないように見える。だけど、さっきの声はいつもと違った。
 俺よりもカディと火主との付き合いが長いチークが、こんな状態に苦しんでいないわけがない。俺はもう一度腹をくくった。
「カディ!」
 今度はさっきよりもしっかりと声が出た。俺はそれに満足しつつ、攻撃を受けない程度に一歩前に出た。

2008.09.19 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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