IndexNovel精霊使いと…

精霊使いと魔法国家

9章 6.あれからのこと

 それで、と話を変えたのはカディだった。
『昨日はあれからどうなったのです』
「ああ、そうだったそうだった」
 セルクさんはぽんと手を打った。来たときとは打って変わって眠気のすっかり冷めた顔で「その報告も兼ねて来たんだった」と続ける。
「フラストの殿下がいる場でどうかとも思うけど、ソートちゃんに言ったら多分筒抜けだもんね。これもそれなりに内密な話なので口をつぐんでもらえるとうれしーな」
 ねっとセルクさんはグラウトにウインクし、グラウトはとても嫌そうに顔を歪めた。
「軽々しく口にするようなことはしないが――素直に従うのが癪なのは何でだろうか」
『態度が軽いからでしょう』
「そうだろうな」
 グラウトはカディと顔を見合わせて意見を一致させている。
「えーと、内密にしていただけると了承していただけて?」
 ああとグラウトがうなずくとセルクさんはにっこりした。
「昨日の今日――今日の今日と言った方が正しいけど、さっきの今だから正確な処罰は決まってないよ。ボルドの当主本人は応急処置が早かったこともあってとりあえず一命を取りとめたけど、予断を許さない感じかな。昨日から意識を取り戻してないので詳しい話はまだ聞けてない。少なくともボルド家は取り潰されると思うけど、ボルド家からは昨夜賊が侵入し、当主がさらわれたようだと報告が入ったから、当主のみが関わっていたんだとしたら情状酌量の余地はあるのかも?」
「まあ、生きてたんなら良かったな」
 とりあえずほっとして呟くと、どうかなあとセルクさんは顔をしかめる。
「当人にとってはいいことかわからないけどねー。まさか人外の黒幕がなんて言えないから、表向き主犯はバーズナになりそうだけど、かつて放逐されたバーズナを屋敷に招いていた時点でボルドも深く関わってたんだろうし。今回の件では――まあ、ほら、色々あったからね」
「その色々の詳細が知りたいものだが」
「あちこちの屋敷に放火してのけたし、兵舎も燃え落ちたしね。いやあ俺も大変なのよー。あそこの責任者俺になってるから、追求してくる輩がいて。主犯を捕らえた功績でなんとかなりそうだけどねえ」
「――なるほど」
 グラウトは納得してうなずいた。
「で、その主犯にされちゃうバーズナだけど、こっちは目覚めたよ。王弟殿下とレイちゃんの二人で精霊払いと魔法封じの結界張った上で牢に入れてる。かなりの実力の持ち主だけど、ラストーズでも屈指の魔力の持ち主が二人がかりで封じてるんだから大丈夫かと思う」
『そんな結界を張れば、かえって興味を持つ同朋がいそうなものですが』
「えー、そうなの?」
『入るなと魔法使いに魔力で指示されるとかえって逆らいたくなるものです』
「そういうものなの?」
 カディはそうですと答え、いつも通りの沈黙を守っていたチークが重々しく主肯する。うわあ、とセルクさんは天を仰いだ。
「じゃあソートちゃんに力を借りるべきかしら。それとも精霊主様に命令してもらったほうがいい? とりあえず殿下は強い精霊の気配はないって言ってたし、俺やレイちゃんの見る限りもそうだったから今のところ問題ないけど」
『我々がどうにかと言いたいところですが、また何かあれば困るので全員で行きましょう』
「厳重に警戒されてるから、ちょっと面会まで手間取るけどすぐにどうにかできるように何とかする」
 言うやいなやセルクさんは慌てて部屋を飛び出して行った。
「あの男も専門外の事態には弱いか」
「誰だって専門外のことには弱いと思うけど――精霊払いの魔法なんてあるのか?」
 俺だって魔法のことはほとんど知らない。
 精霊は自然の事象を司り、世界にあまねく存在しなければならない。そんな魔法が実在し、悪い魔法使いがそんなものを使ってしまえば大問題だ。
 スィエンと出会ったあの時のような異常事態が簡単に起きかねないわけだから。
『一応ありますよ。ですが、力の弱いものには効果はあるでしょうけど、強いものには逆効果ですね。かえって興味を引きかねません』
「精霊はそんなに好奇心が旺盛なのか」
 あっさりと認めたカディの言葉は俺の不安を煽ったけどすぐにそれを払うような言葉を続け、グラウトが興味深そうに声を上げた。
『だからこそ自然を司ることができるのです』
 一応精霊が専門の俺だけど、好奇心と自然の関係なんてまったく知らなかった。とりあえずそういうものなのかと胸の内に収める。
『その魔法にあまり効果がないことが、魔法使いより精霊使いが力があると言われる理由の一端かも知れませんね』
「なるほど」
『実際そう簡単な話ではないと思いますが』
 ふんふんと納得しているとカディは続ける。
「それはそうだろう。そんな単純なことでラストーズが長年精霊使いを疎んじていたとも考えがたい。実際、自らの力で力を放つ魔法使いより、他方から――精霊使いから力を借りて放つ精霊使いの方が振える力が大きく、持久力もあるということだし」
『より大きい理由は、まさしくそれでしょうね』
 カディがグラウトに向けて満足そうにうなずいた。
「でも魔法の方が、なんだ。あれこれ――面白いことができるっていうか、汎用性がある気もするからどっちに利があるとも言いがたいんじゃないか?」
「だからこそ、魔法も使える精霊使いが存在するわけだね」
『まさかソート、魔法を学びたいとか思ってるわけじゃありませんよね?』
 何馬鹿なこと考えてるんですかとカディは大きく目を見開いた。
「精霊使いがそうであるように、魔法使いにも才能が必要だ。私はソートには向いていないと思うな」
「そんな事考えてもないってのに言うなよそーゆーことを」
 俺は少なからずむっとした。俺に魔法の才能があると思ってるわけでもないし、そんなつもりもないけど、否定されるとなんとなくやってやろうかって気分になる。
『そうですか。ああ、びっくりしました。下手に魔法に手を出すとろくなことがありませんよ。よほどの才がない限り、どちらも中途半端になるに決まってます』
 だけどカディの言葉に俺はすぐさま考え直した。そうだよな、才能があるかもわからないのに魔法に手を出しても頭がパンクするだけだ。
「ソートは器用じゃないからね。君が師匠くらい器用なら私も勧めるんだけど」
『魔法も扱うのですか? ソートの師匠とやらは』
 あんな多才な人と比べないでくれと俺が突っ込むよりもカディが驚くのが早かった。俺とグラウトはほぼ同時にこくりとうなずく。
「あの精霊使いは何でもするからね。他人に隙を見せないだけかもしれないが、私の知る限り不得手なことは何もない」
「俺に剣を仕込んでくれたのも師匠だし」
『精霊使いであると同時に魔法も剣も扱うのですか……それはたいしたものですね』
「有能な精霊使いのようだから、長年の経験の賜物なのかもしれないね」
 感心するカディにグラウトが説明し、なるほどとカディはうなずいた。
「てことは、俺もそのうちあそこまでなれるかなー?」
「無理だろう。隙が一つもないソートなんてソートじゃない」
 それはどういう意味だとグラウトに詰めよろうとしたところで、出て行った時と同様に慌ただしくセルクさんが戻ってきた。

2009.03.11 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

←BACK INDEX NEXT→

感想がありましたらご利用下さい。

お名前:   ※ 簡易感想のみの送信も可能です。
簡易感想: おもしろい
まあまあ
いまいち
つまらない
よくわからない
好みだった
好みじゃない
件名:
コメント:
   ご送信ありがとうございますv

 IndexNovel精霊使いと…
Copyright 2001-2009 空想家の世界. 弥月未知夜  All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.