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精霊使いとくりすまー
2.魔法のような手腕(グラウト視点)
一体どんな魔法を使ったのだろうと思う。
帰ってきた精霊使いは父王の許可証を手にしていた。
「よし殿下、パーティするぞパーティ」
第一声がそれで、その声に眠気を飛ばしたソートが歓声を上げる。
何事かと顔を上げる私に許可証を見せつけて、精霊使いは一言「よろしく」などとのたまう。
広間を一つ、それに厨房の使用許可も下りている。短時間のうちに一体どうやってそんなものを手にしたのか、わからないが。
一つだけはっきりわかるのは精霊使いがソートにとても甘いのではないかということ。
子供の言葉一つでここまで出てきて、気むずかしい父王からいろいろな許可を得るなんて普通できない。
「異界の祭りを本気でするつもりですか?」
「おうよ。楽しそうだろ?」
「パーティパーティー」
一番楽しそうなのはソートで、次点が精霊使い。
きらりと瞳が輝いて見えるのは気のせいではないだろう。
「最初からそのつもりで、ここまで?」
「もちろん。家で二人はむなしかろ」
「それはまあ、そうだけど」
「それに――」
彼は少し真面目な顔になって言葉を探す。
「堅苦しくないパーティは楽しいぞ」
最後にウィンク一つ。
どういう意味だと問う前に素早く彼は身を翻してソートの頭をなでている。
「ソート、くりすまーは明後日だ。元ネタが割れた以上、準備は任せとけ。じゃあそんなわけで殿下、重ねて申し訳ないけどソートのことは任せた!」
反論する隙を私に与えずに精霊使いは言い残して去っていく。
「何故あんなにやる気なんだ? あの人」
問いかけには当然答えが返らない。
ただきょとんとソートが私を見上げて不思議そうに首を傾げた。
それからというもの、我が物顔で精霊使いは王宮内を闊歩したらしい。
「早速食材をたくさん、買い込んで来たみたいですよ」
一日目、精霊使いがやってきて父王に許可を取り付けたその日はまだ静かなものだったけれど、コネットが身振り手振りで報告してくれたのがそれだった。
二日目は買い込んだ食材を使っての料理の下準備に追われていたらしい。コネットまで駆り出されて、彼女は夕方へろへろになって帰ってきて、言った。
「あの人は……精霊使いだと思ったんですけど……」
「実際そうだと思うけど」
見る限りいつも彼の周りは精霊がたくさんいる。精霊使いでない半端な私に精霊が見えることはまれなのに、彼の周りではいつも精霊がはっきりと見えるのだから相当好かれているはずだ。
私の言葉にコネットは弱々しく微笑んで頭を振った。
「ものすごく手際がよかったですよ」
「そうなのかい?」
「あれはどこかで修行をしてますね、絶対。大人数の食事を作り慣れてます」
力強くコネットは言い切る。
「料理長が教えを請いたいそうにしてましたよ」
「まさかだろう!」
彼は自分の仕事にプライドがある人だ。同業者ならいざ知らず、精霊使いに教えを請うなんてとても思えない。
「あまり見ない料理でしたから、でしょーねぇ」
コネットは私の驚きなんて気にしないでけろっと言う。
「ちょっと味見をさせてもらったですけど、おいしかったです。期待できますよー」
二日目の夕方から深夜にかけては広間の飾り付け。親交のあるブロードやクレアズに協力を求めて張り切って行ったらしい。
「――あの人はあんなイベントごとに興味があるとは思えなかったんですが」
三日目、ソートが昼寝の隙に図書室に顔を出すと、普段にない眠そうな顔でしみじみとクレアズは言った。
「相当気合いが入ってますね。驚かないで下さいよ?」
精霊使いが借りた広間は立ち入り禁止を言い渡されている。言い聞かせられなくとも行く気はない。
午後からがパーティの本番なんだ、慌てて見に行く必要性もない。
言い出しっぺのソートはと言えば、最初こそ「パーティパーティ、ごちそうごちそう」などと騒いでいたけれど、いつの間にかそのことを忘れたように遊んでいた。
今日が当日だってことも、ともすれば忘れているだろう。着せられた服がいつもと趣を違えていると気付いているかどうかも怪しい。
2006.12.02up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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