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精霊使いと少年王

3.ちょっと戦い? 〜ソート〜

 がっしゃん!
 音を立てて牢が閉じられた。俺をここまで連れてきた騎士達は無言のまま去っていく。
 地下牢の扉が閉まって、足音が遠ざかる――。
「くそっ」
 苛立ち混じりに鉄枠を蹴りつけたところで痛いだけだった。
 あーもーッ!
 何だって俺がこんな目にあわなきゃなんないんだよっ。
 牢は薄暗くてカビ臭い。衛生が悪いのは間違いない。長居はしたくないところだな。
 俺が何か悪いことしたか?してないよな? してねーよ。
 カディと一緒にいることが罪だなんて言うんじゃなかろーなあの国王サマは?
「はー」
 確かにカディは意思はあるわ喋るわ、喋るどころか余計な口出すようなきわめて異常な精霊だが、ヤツとお近づきになるためにだけで俺を閉じ込めるこたないだろー?
 精霊にも精霊使いにも悪いヤツはいないってのが俺の持論だが、こんなことで捕らえられるってんなら考えを改めなきゃならないよな。
 あーもー。
 俺はそっと室内を見回した。室内には、精霊たちがうようよいる。
 ココは国王サマの影響もないらしい。
 あっさりと火の精霊に鉄枠を熱してもらって、地の精霊に殴りつけてもらう。ぐにゃ、と鉄が歪んだ。
 あとは堅いブーツでぐいぐいとそれを押し広げてなんとかくぐりぬける。
 軽いモンだな。うん。
 俺は精霊使いだぞ? これくらいいざとなりゃどーとでもなるって思わなかったのか、あの国王陛下は?
 ま、いいけど。
 足音を立てないように注意して、入口に向かう。
 扉から外を探る。
「カディ」
 呼びかけてから、カディが近くにいなかったことを思い出す。
 駄目だな。出会ってわずかな間にカディに頼るクセがついていたのかも。
 苦笑しつつ、他の風の精霊に呼びかけ。
 望み通り彼女は外の様子を探ってきてくれた。
「誰か居るみたいだな?」
 問いかけるとこくこくうなずく。
「そか――ありがとな」
 彼女はふんわり笑ってすっと周囲に紛れ込んだ。
 さてさて。見張りかな?
 意識を凝らして扉の外を探る。人がいるのはわかるが、詳細はわからない。
 カディがいれば聞けるんだろうが……いないしな。
 普通の精霊に喋れっつったトコで無理な話だし。
 つくづくおかしいよなカディ。口うるさくさえなきゃいい相棒なんだけど。
 ま、この場にいないモンはしかたない。
 剣が奪われたのも心許無いが、仕方ないさ。
 とっととカディと合流してこんなとことはおさらばだ。
 一つ深呼吸して、がちゃりと扉を開ける。
 先制。
「貴様っ?」
 幸い残ってたのは――たった一人!
 驚愕に歪んでいく顔に笑いかけ、腹に蹴りをぶちこむ。
 痛ぇ。鎧で弾かれる。
 しかし見張り騎士は数歩たたらを踏んだ。
「誰――?」
 叫びかけた騎士の声を風が封じてくれた。空気がうごかなきゃ声は伝わらないモンだ。
 騎士が目を見開く。
 たんっ、と足を踏み鳴らすと地面からひょっこり浮かんだ地の精霊が騎士の足をひっかけた。
 ナイス連携。
 体制を崩したところに、手刀で騎士を沈黙させる。
「ちょろいなー」
 ていうか、俺のこと軽く見ているのか?
 各国どこでも精霊使いは抱えているものだし、この国は国王自体がそうだ。
 つまり、精霊についてはよく知っているはず。
 精霊たちは、頼めば大抵のことをしてくれるもんだ。精霊使いは精霊が近くにいさえすればほぼ無敵なんだ。
 精霊使いを大人しくさせるためには、その近くに精霊をいさせちゃいけない。
 それはわかってるはずなのに――なんでそうしなかったんだか。助かるけど。
「わりーね」
 聞いてはいないだろうけど、見張り騎士に一声かける。みぐるみはがして、猿ぐつわ。
 鎧を拝借、身につける。サイズがちょっとでかい……かな?
 仕方ないよな、体格違うんだから。
 剣を手にとった後、何となく周囲を見たら、とられていた俺の荷物があった。当然、剣もだ。
 借り物の剣は騎士の隣に放り出して、自前の剣を手に取る。うん。やっぱりコイツだよな。
 荷物を抱える。体を見下ろして、自分の今の姿を想像する。
 ……ちょっと、荷物が間抜けかも。正体、バレるか――? 
 まあ、そんときゃそん時だ。見咎められたら口で言い逃れればいいんだし。
 さて。じゃ、行くかなー。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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