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精霊使いと少年王
5.精霊使いと少年王 〜ソート〜
「ど、どうやって逃げ出した?」
慌てて国王が言うんで、俺は思わずにやりとしてしまう。
「どう、て」
や、とカディに手を振りながら、答えてやる。
「鉄格子を火の精霊に熱してもらって、で、土の精霊に力の限り殴ってもらった。ぐにゃっと曲がったから簡単なもんだったな」
「馬鹿なッ」
「馬鹿な、とか言われてもなー」
「少なくとも、宮廷内の精霊は余の影響下にあるはず――」
「慢心のし過ぎか、監督不行き届きなんだろ」
あっさり言ってやりながら、鎧を脱ぐ。あー、重いのなんのってこれ。
よくこんなモノ身に付けてうろつけるもんだよ本職の騎士ってヤツは……ちょっと尊敬しちゃうぜ。
「見張りはいなかったのかッ」
「見張りなら転がしといたから、あとで助けてやってくれ。この部屋の前にいた見張りなら、適当なこと言って追い払っといたぞ」
「何をやっているのだ? あの馬鹿者ども!」
ま、俺の演技力の勝利ってヤツだな。
見せてやりたかったぜ、俺の華麗な騎士姿を。
今ごろ、いもしない敵を捜し求めてるはずだぜ、あいつら。
相当腕いんだな、国王さん。こりこり肩をまわしてから、カディを見ると色んな精霊たちに囲まれて動くに動けない状態らしい。
「カディ! てきとーにどうにかして、帰ろう」
『そうですね』
にっこり笑ってカディは動いた。
今まで囲まれていたわりには、すんなりと囲いをよけてこっちに来る。
って、そんなことできるなら最初っからそうすりゃいいのに、なんでそういうことしないんだろこいつは。なんか手を抜いてんじゃあないだろな?
「ち――ちょっと待て! 精霊!」
『嫌です』
焦って国王が叫のに、すっぱり言い切ってカディは行きましょうか、と俺を促した。
「だな。こんなとこに長居は無用だ」
「庶民! 貴様を捕らえるよう国中に触れを出してもよいのだぞ!」
今度は俺に怒鳴る国王の顔は限界に挑戦とばかりに赤かった。
「別に構わない」
『前科者と一緒にいたくないんですけど私』
前科、って何もしてないだろーが。
ため息を一つ。ちらりとカディを見上げてもう一つため息。
国王陛下を見据えて、俺は口を開いた。あんまり、言いたかないんだけど、なぁ。
「フラスト王家を敵に回したくなけりゃ、だけど」
『ソート?』
「フラストの次期国王、グラウトとは知己だ――将来、働かないかって誘われてる」
グラウトはいいヤツだが、それだけは遠慮してんだけどな。
まあ、それはそれ。誘われてんのは事実だ。
「馬鹿な話を――」
「聞いてみたらどうだ?」
「たかが庶民一人に、ヤツが動くはずがなかろう!」
「一応、将来を嘱望されてる身なんでね」
軽い口調で言ってのける。
精霊使いってのは、まあ大体どこか国に雇われてるもんなんだ。たまたま師匠がフラスト王家と親しかったせいで、そんな話が出たこともある。
個人的には、悪いヤツじゃないんだけどなぁ。グラウト――悪いヤツじゃないけどいいヤツでもないのが微妙だけど。
それもあってヤツにだけは頭を下げたかないな。それに宮仕えなんて性に合わないんだって絶対。そいつは間違いない。
国王は唇を噛んだ。
フラストはそう大きい国じゃないが、この国よりも国力がある。
試しに敵に回して、貿易が規制でもされたら、経済に多大な影響を及ぼすだろうな。
「賢明なご判断を期待しますよ、陛下」
舌を噛みそうな言い方で、嫌みたらしく言ってやることに成功すると俺はカディを促した。
『あ、え。いやはいっ?』
「何呆けてんだよ?」
「じゃ、失礼いたします」
扉の前まで来て、振り返る。
カディと同じく呆けた顔をしていた王が、はっと気付いたように顔を上げる。
「ちょ、ちょっと待て! 庶民!」
だーから。待てっていわれて素直に待つ奴がどこにいるんだってば。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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