IndexNovel変な人シリーズ

第三話 変な人と城上祭

25.祭りの後に

 優美が秘密基地を後にしたのは、昼が過ぎてからだ。
 武正のそばを去りがたく、会話もほとんどないのにゆっくりとした。昼にその場を動かない彼に変わって二人分の焼きそばとフランクフルト買って昼食をすませた後、ようやくブースに戻ろうと思ったわけだった。
 立ち去りがたい気持ちは変わらないけれど、いつまでもぼうっと座っているわけにもいかない。相原だって心配しているはずだと腰を上げて戻ってみると、やはり彼女は待ちかまえていたように優美を見るなり椅子から立ち上がった。
「優美ち−!」
 ひっきりなしに女の子が押し寄せていたブースも静けさを取り戻しているようで、見知った顔以外に誰もいなかった。
 奥まったところで立ち上がって手を振る相原の近くには、どこか疲れた様子の二宮がいる。
「どう? 小中いた?」
「ええ、はい」
「どんな様子だった?」
「吹っ切れたとは言ってましたけど、まだ人前に出る――勇気? は、ないみたいで」
「意気地のないヤツねえ」
 矢継ぎ早の問いかけに優美が苦笑しながら手短に武正の様子を伝えると、相原はふうとため息を漏らす。
「堂々としてりゃいいのに、何でそこでへこむかな」
「そういうヤツなんだよあいつは」
 二宮のフォローに「そういう問題かしら」と相原は首をひねる。
「まあでも、思ったよりは――普通だったかと」
「悩む質だけどそれなりに図太いんだよ。吹っ切れたって言ったからには、そのうち浮上して戻ってくるさ」
 あっけらかんと二宮は言う。
「落ち込む必要はなかったと思うけど。てゆか小中ノリノリだったじゃない」
「それがナカだからな」
 さっぱりわかんないわよと相原が言うと、二宮はそれがナカだからともう一度繰り返した。相原は肩をすくめて口を閉じる。
「ま、なんにせよ吹っ切れそうと言ってるならよかった」
 優美は二宮にうなずいて、
「本当に吹っ切れてくれたらいいんですけど」
 と続ける。二宮は神妙な顔でうなずいてから、「たぶん大丈夫だろうさ」と軽く口にし、実際夕方にはけろりとした顔で武正はブースに顔を見せたのだった。



 準備期間の長さに比べて学祭は遙かに短く、矢のような早さで過ぎていった。二日目の十七時半、太陽は西に去りかけていて、各所に増設されたライトがそれに抵抗しぽつりぽつりと周囲を照らしはじめている。
「片付けようか」
 二宮が言うと皆一斉に動き出す。
 画商部の成果はまあまあといったところだった。全員の労働の対価としては物足りないが、それなりの数の問い合わせがあった。だが、出来たての活動に問い合わせがあったこと自体は評価していいだろう。
 宣伝の効果は両日ともほとんど違う方向に結実した。一日目に引き続き二日目も昼前まで、ひっきりなしに女の子の群れがやってきたのだ。その中でも本来のターゲットがある程度いたことには意味がある。
 途中で顔を出した三崎教授は「学内にサークルの名は広まったでしょうね。これからよ」と笑顔で言ったし、二宮を始め幹部連の顔も明るければ、やはり効果があったのだと優美の確信は深くなる。
 設営はイベント前の熱気で気合いが入っていたけれど、撤去は気合いに欠ける。一抹の寂しさを覚えるのは優美だけじゃないようで、皆どこか動きが鈍かった。
 そんな中、一人元気なのは武正だった。
「日中は俺、あんまり動けなかったから、片付けくらいはねー」
 人目を避け、両日ともに朝から逃げだし帰ってからもブースの奥でそっと様子を窺うしかなかったものだから、挽回とばかりに腕まくりまでして張り切って動いている。
「まったくだ。騒がすだけ騒がして自分は高みの見物なんてな」
 それを聞いたメンバーの言葉に武正がぐっと詰まると、椅子を持った手をぐいと武正に近づけてそいつは彼をにらんだ。
「どうせなら、一人二人引っかけて回してくれたらいいのに」
「はあ?」
「今日の朝イチに見た、茶ロングの子、やばいくらい可愛かったのになあ」
 言われたことを認識するにつれ、武正はショックから困惑、そして理解へと感情を更新していくようだった。
「え、あー、いや、そういう道義にもとる真似をしたらタケノジョーが怒るしー?」
「おまえその見た目を使わないと損だぞ損。今ここにいないコナカに気を遣ってどうするよ」
 困ったように口をつぐむ武正からふいっとそいつは顔をそらした。
「連絡先を聞きまくってくれてたら……」
「いや、それは軽い犯罪じゃないでしょーか」
「よく言った小中!」
 相原は会話する二人の間に割り込んで、ぺしりと馬鹿なことを言ったメンバーに突っ込みを入れた。
「あんた人に頼ってないで自力で動かないと。大体小中の見た目で引っかけたら、自分に勝ち目がないってわからないわけー?」
「ひでえな、相原」
「事実よ! 性格はともかく見た目はコナカなんだからもてるわよ小中は」
「うわー、それフォロー? それフォローなの相原ちゃん」
「もちろんよ」
 自信満々に胸を張る相原に武正は苦笑した。半分冗談めかして彼に文句をつけたメンバーも、困ったように苦笑して肩をすくめる。
「まあ相原は置いておいて、そのうち合コンなりしようぜ、小中」
「あはは。気が向いたらねー」
 武正は軽くうなずいた。その後泳いだ視線が優美を捕らえて、気まずげに微笑む。それはさすがに無理よねえという意味を込めて優美もそれに微笑み返した。
 大それたディスプレイをしていたわけでもないブースは、単純に使ったものをしまい込めば片付いてしまう。頭数があるから鈍い動きで作業しても一時間もかからない。
 その片付けが終われば、あとは打ち上げ。フルメンバーが参加して、成果をたたえあうというよりはこれからも頑張ろうというノリで盛り上がった。
 勢いのまま突撃したボウリング場でのにわかボウリング大会は、ほとんどのメンバーは冗談交じりなのかいまいち精彩を欠き、何故か盛り上がっている武正と二宮のほぼ一騎打ち。最終的に三ピン差で二宮が勝利し、パワーはないもののうまく中心を捕らえることが多かった相原がそれに続く形となった。優美のボールは半分以上溝をきれいに掃除していて、うまい人達がうらやましくてならなかった。
 三次会のカラオケなんて、ボウリング以上にいたたまれない。寮の門限を言い訳に優美は帰途につくことにした。

2007.05.14 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

<BACK> <INDEX> <NEXT>

感想がありましたらご利用下さい。

お名前:   ※ 簡易感想のみの送信も可能です。
簡易感想: おもしろい
まあまあ
いまいち
つまらない
よくわからない
好みだった
好みじゃない
件名:
コメント:
   ご送信ありがとうございますv

 IndexNovel変な人シリーズ
Copyright 2001-2009 空想家の世界. 弥月未知夜  All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.